背景
導入
目標
制度設計
予想された成果(事前的分析)
実績
問題点
文献
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最終情報更新日
背景
窒素酸化物大気中へ排出される窒素酸化物(NOX)は、二酸化硫黄(SO2)とともに酸性雨の主な原因物質である。酸性雨はスウェーデンにおいて森や湖における植生や野生動物の生活に広範な損害をもたらす。また、大気中窒素酸化物の排出は、森林や海底の富栄養化の主な原因でもある(Höglund, 2000, 4ページ)。
スウェーデンは越境大気汚染による高レベルの窒素酸化物の影響を受けやすく、国内起源の窒素堆積物は20%のみである(Løvgren, 1993; OECD, 1994, 43ページからの引用)。スウェーデンは、国のほとんどの部分を覆っている特殊な花崗岩盤のために、酸性化に特に脆弱である。スウェーデンにおける酸性雨原因物質の沈殿の多くはスウェーデン国外の排出物によるものではあるが、スウェーデン(およびノルウェー)においては酸性雨の原因物質である窒素酸化物および二酸化硫黄対策が環境政策の重点的な目標になっている。
1985年、スウェーデン議会は窒素酸化物の排出を1995年までに1980年排出量より30%削減する目標値を設定した。1980年から1995年までの窒素酸化物の排出削減量は約20%で、目標は達成されなかった(Sterner, 2003)。
目標値の達成のためには既存の規制的政策は十分ではないと考えられ、そのため窒素酸化物課徴金が導入された。
窒素酸化物の主な排出源は
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->道路交通 41%
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->産業用機械及び加工 27%
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->発電 11%
(OECD, 1997, 43ページ)
導入
1991年導入、1992年1月施行
目標
課徴金の目標は「最先端燃焼技術及び汚染除去技術への投資を促進し、既存の規制的手法を補完すること」(Barde&Smith, 24ページ)、および「規制により義務付けられた基準以下に排出を削減するための、費用効果的な手段を提供すること」(OECD, 1997, 43ページ)である。
窒素酸化物課徴金は、発電所から及び産業における大規模燃焼プラントからの窒素酸化物の排出を削減することに焦点が当てられている。総排出量のうち対象となっているのは比較的小さな割合である(OECD, 1997, 43ページ)。
制度設計
対象範囲
スウェーデンの窒素酸化物課徴金制度において、課金支払い義務の対象となっているのは大規模燃焼プラントのみである。小規模プラントにおいては、(除去費用とともに)排出測定費用が高額であるため、これらは課税対象から外すべきだと判断された。制度設計に際しては、大規模プラントのみが対象になっている事が特別に留意され、還付金制度も同時に導入された。すなわち、ある産業の一部企業のみに課税するような税金制度は、課税される企業とされない企業の間に不公平を生じる。課徴金が大規模プラントのみに適用されるようなケースでは、例えば、ゴーテンベルグ・エナジー(Gothenburg Energy)のような会社は、大きな燃焼プラントを一つ設置するより、複数の小さなプラントを設置するほうが有利になる。これは(窒素酸化物および他の汚染物質の排出という観点から)望ましくない。還付金制度は、これを是正するため課徴金とセットで導入された。
制度の運用が進み、政策効果が出るにつれ、排出削減および測定費用が減少したため、制度の対象範囲となる基準が2度に渡って引き下げられた。当初は、年50GWh以上のエネルギー(useful energy)を生産する約200の燃焼プラントが課徴金の対象となっていたが、1996年にはエネルギー(useful energy)生産量年間40GWh以上のプラントすべてが対象となり、1997年には対象が、年間25GWh以上のプラントに再度引き下げられた。1998年現在では約400プラントが課徴金の対象となっている(Höglund, 2000, 6ページ)。(問題点の項も参照)
課徴金率
大・中規模のボイラーは窒素酸化物1キロ当たり40スウェーデンクローナ(4.54ユーロ、窒素酸化物排出1トン当たり4500ユーロ)の率で課金される(OECD, 1997, 44ページ)。
課徴金の額は、直接実際の排出量または予想排出量を元に決定される。企業はどちらかを選択することができる。多くの場合実際に測定された排出量を元にしたほうが低い低い課徴金となるため、この方法が選ばれることが多い(OECD, 1997, 44ページ)。
還付金
スウェーデンにおける窒素酸化物課徴金は非常に高額に設定されている。例えばフランスの同種の課徴金に比べて200倍高い。しかしながらスウェーデンの制度では課徴金は窒素酸化物排出企業に生産されたエネルギー量に応じ、再分配され返却される。すなわち排出産業全体としては社会に対しての支払いはプラスマイナスゼロであり、これがこの課徴金制度を政治的に実行可能にした大きな要因であったと考えられる。
この課徴金は、監視費用が高額であることから、対象が少数の大規模排出源に限定されており(OECD, 1997, 44ページ)、生産されたエネルギーの量に比例して返却される。そのためエネルギーを無駄にしないインセンティブが生じ、課金されている企業とされていない企業の間の競争力の歪みを防ぐものになっている。エネルギー生産当たりの排出の多いプラントがこの制度における純支払者であり、一方エネルギー生産当たりの排出の少ないプラントがこの制度における純受取者である(OECD, 1997, 44ページ)。還付金制度はまた、大規模プラントが、課税を避けるため、複数の小規模プラント(環境の面から望ましくない)に変換されることを防ぐインセンティブを与える。
制度的取り決め
課金の運営事務はスウェーデン環境保護省(Environmental Protraction Agency)が担当し、運営費は徴収された歳入の約0.3%と非常に低いレベルで抑えられている。測定費用は支払われた全課徴金額の約3%にあたると推計される(Sterner, 2003)。
監視と実施
窒素酸化物排出の測定は、環境保護省により承認された設備を用いて実施される。企業が排出量を直接測定しない場合、標準的な評価方法が用いられる。すべてのプラントは、エネルギー生産量及び窒素酸化物排出量に関する書類する提出する義務がある。環境保護省は企業を監査し、また、無作為に抽出した複数の企業に関して、毎年査察を行う。目標はすべての企業が5年ごとに査察を受けることである。毎暦年初めに企業はプラント毎に書類を提出し、その年の窒素酸化物の排出量及びエネルギーの生産量を申告する。企業は10月1日までにその年の純課徴金を支払わなくてはならず、環境保護省は12月1日までに還付金を返却する。それぞれの企業はいくつかの生産設備を持つことができ、それらは別々に監視される。この2ヶ月という期間はキャッシュ・フローにかかわる問題を最小限にとどめるように設定された。窒素酸化物課徴金はおおよそ成功しているといえる。企業の対応は迅速で、排出量の削減は課徴金導入前から既に始まっていた(インセンティブ効果のため)。
予想された成果(事前的分析)
課金のレベルは、「明らかなインセンティブ効果を与える高さを確保しつつ、排出規模の大きい企業に与える費用負担とのバランスを反映した(OECD, 1997, 44ページ)」レベルに設定された。
窒素酸化物排出量の削減により、課金による歳入は減少することが予想された。同時に実施されていた許容総排出量規制の強化により、排出量は1995年までに年9000トンのレベルまで下がることが予想されており、また課金の効果により、総排出量規制の対象に含まれていないボイラーに関して、2000年までに年3千から5千トンの排出削減が達成できると予想された。両者を併せた排出削減効果は、年間約5千から7千トンくらい(Swedish Ministry of Environment, 1991: OECD, 1997, 45ページからの引用)になるとされた。
成果
窒素酸化物課徴金が、対象プラントからの大幅な排出削減の第一の要因であるとみられており、この課徴金制度は比較的成功を収めたと評価されている。1992年以来継続的に課徴金の対象であったプラントにおいては、課徴金導入当初と比べてエネルギー1単位当たり平均40%の窒素酸化物排出量の削減がみられた(Höglund, 2000, 6ページ)。(問題点の項も参照)。
20ヶ月間で窒素酸化物排出量が35%減少した(Barde&Smith, 1997, 24ページ)。
窒素酸化物課金の公表により、課金の施行以前に既に大幅な排出量削減が促進された(Barde&Smith, 1997, 24ページ)。
技術革新や、より効率的な技術を採用するインセンティブ効果により、窒素酸化物排出削減のための費用は一キロ当たり20-80 SEK(スウェーデンクローナ)から10 SEKまで下落した(Barde&Smith, 1997, 24ページ)。
1992年から1993年までの窒素酸化物排出レベルは
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->焼却処分場において42%減
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->エネルギー生産プラントにおいて23%減
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->製紙産業において17%減
<!--[if !supportLists]-->- <!--[endif]-->金属産業において13%減
となっている(Løvgren, 1993, 表3: OECD, 1994, 46ページからの引用)。
エネルギー1単位当たりの窒素酸化物の排出量は1990年から1996年の間に60%減少し、総排出量は2万4千5百トンから1万2千5百トンまで約50%削減された。また、課徴金によってエネルギー部門の燃焼プラントからの窒素酸化物の排出は約25パーセント(1万トン)削減され、これはスウェーデンの総窒素酸化物排出量の約3パーセントに相当する(EEA, 1999, 70ページ)。これは予測されていたより5-7千トンほど多い削減量であった。
課徴金の返還制度により、プラントはエネルギー1単位当たりの窒素酸化物排出量を最小化するインセンティブを持つことができた。エネルギー生産量の部分的増加にもかかわらず、窒素酸化物総排出量は減少した(Ekins, 1999, 48ページ)。
窒素酸化物課徴金が導入されていなかったとしたら、ボイラーからの窒素酸化物排出量は80%以上高かったであろうと考えられている(EEA Draft Report, 2000, 6ページ)。
窒素酸化物排出量の80%が移動排出源(車、トラックなど)からの排出であり、工場などの定置排出源からの排出は20%である(Höglund, 2000, 5ページ)。
環境改善効果は初期において最も大きく、減少率はその後落ちているものの、改善はいまだ続いている。しかしながら、課税対象の拡大により、一般的に一単位当たりの排出の高い小規模プラントが後に対象に組み込まれたため、時系列での改善の効果は明確にはわからない。課税導入当初から対象であった(大規模)プラントのみをとってみると、その平均は1997年に0.26、98年に0.25と減少している。生産費用に比べて、課徴金は小額であり、一般化すると、課徴金の価格効果そのものは小さい、という評価をすることができる。
還付付き課徴金システムは、競争力という観点からできるだけ中立性を保つようにデザインされた。それでも一部生産者にはプラスの影響を与えた。この課徴金制度によって影響を受けた産業は、食品飲料産業、木材及び木材製品産業、製紙産業、金属製品(機械設備産業)、化学産業、エネルギー産業、そして廃棄物焼却産業である。各産業が窒素酸化物課徴金によってどのような影響を受けたかをみてみると、1998年において、製紙産業が約4千7百SEK(スウェーデンクローナ)の課徴金の純支払いを行っており、一方エネルギー産業は純収入4千9百SEKを計上している。
これら二産業に比べると、他産業における純収入は、プラスの場合もマイナスの場合も含めて絶対値において1,000SEK(スウェーデンクローナ)以下と大幅に小さくなっている(1992-3年の廃棄物焼却産業を除く)(SEPA, 1999図3参照)。企業間の総費用を比較する際には、排出削減投資費用の差異を考慮しなければならない。排出削減費用と返還された(プラスかマイナスかの)課徴金の合計は、すべての産業において総生産額の1%以下であった。
競争力への潜在的影響評価によると、窒素酸化物課徴金による支払いの最も多い産業は製紙産業であった。また、それぞれの産業内でも、企業レベルで「勝者」と「敗者」が存在する。一般的な傾向としては「勝者」はエネルギー産業に多く見られ(最も多くの支払いを受けた企業は1千万スウェーデンクローナ受け取った)、「敗者」は製紙産業に多く見られる(最も多く支払った企業は6百万スウェーデンクローナを支払っている)(ECOTEC, 2001)。
窒素酸化物課徴金は、一部の産業において排出削減技術への需要を大きく伸ばし、そのため、排出削減産業において雇用が促進された。しかしながら、この影響は少なくとも短・中期においては限定的なものになると思われる。企業レベルでの雇用効果も、おそらくほぼ無視できるほどの大きさであろう。また、環境保護省の管理部門においても、大きな雇用効果は認められなかった(窒素酸化物課徴金の収入の0.3%が管理運営費用であり、これは常勤就労者二名の雇用に相当する)。総合的に見て、窒素酸化物課徴金の雇用促進効果はごくわずかであった。
窒素酸化物課徴金からの総歳入は、1992年から98年の間、5千万USドルから1億USドルに相当した(Naturvardsverket, 2003: Sterner, 2003からの引用)。
窒素酸化物課徴金導入の直接の影響を受けて、窒素酸化物排出削減のためのSCNEシステムが開発された(Johansson, 2000)。
問題点
窒素酸化物全体の排出削減が比較的限定的なものにとどまっているのは、自動車などの移動排出源からの削減が技術的に難しいことが主な原因である。スウェーデンにおいては1980年から97年までの間、移動排出源からの窒素酸化物削減は13%であったが、定置排出源からの削減は平均で50%以上の削減成果を収めている(Statistics Sweden, 1998)。
一般的に、エネルギー1単位当たり排出量の削減において、大規模プラントの方が他のサイズのプラントよりも成功を収めている。小型プラントは後になってから課徴金制度の中に組み込まれており、大規模プラントとほぼ同じレベル(400kg/GWh)からスタートしたものの、1998年にはエネルギー1単位当たりの平均排出量は大型プラントのほうが低かった(Höglund, 2000, 6ページ)。
プラントの多くは窒素酸化物課徴金に加えて、地域における環境規制の対象となっていた。そのため窒素酸化物の削減は、還付金付き課徴金制度と環境規制の両方の効果によるものだと考えられる。ある研究によると、窒素酸化物の総削減量の約3分の2が課徴金の効果であり、残りが環境規制によるものであるという(ÅF-Energikonsult AB, 1996)。しかしながら、この計算に使われた方法の根拠が疑わしく、例えばすべてのプラントがその法的義務以下の基準で操業するという仮定が使われている。規制のみで3分の1の排出削減が見込まれるが、課金のみでも課金と環境規制を合わせた効果が達成できるように見られる。スウェーデン環境保護省の計算によると、窒素酸化物課徴金制度が1992年に施行されていなかった場合、1995年時点で燃焼による窒素酸化物排出量が実際の排出量より25%高くなっていたと仮定することが妥当であるとされる。また、窒素酸化物排出削減の副次的作用を考慮することも重要である。アンモニア、笑気(一酸化二窒素)、そして特に一酸化炭素は窒素酸化物の削減によって増加する可能性がある。こうした増加分は総合的に見れば窒素酸化物削減量の4分の1に過ぎない(SEPA, 1997b)。しかしながら窒素酸化物削減の環境改善効果と、その他排出物増加による環境損害の効果を直接比較するのは容易でなく、環境改善効果も環境損害効果も、それぞれが大気の状態に関する多くの要因及び窒素排出物の削減により増加する他の排出物を特徴づける照射-反応関数(Exposure-Response Function)に依存する。還付金付き課徴金制度の、その他の潜在的な問題点としては、この制度が「汚染者負担の原則」と整合的でなく、最適な資源配分を達成しないことである。「汚染者負担の原則」に整合的な一般的な環境税は、生産費用を増加させ、最終製品の値段を上昇させ、それによって段階的に構造変化を誘発するのである(Sterner, 2003)。
文献
‘Do Economic Instruments Help the Environment?’ Barde & Smith, The OECD Observer, No.24, Feb/Mar 1997, pp22-26 http://www.oecd.org//publications/observer/209/ART_IDXE.HTM Ecotec, 2001.
Study on the Economic and Environmental Implications of the Use of Environmental Taxes and Charges in the European Union and its Member States. In association with CESAM, CLM, University of Gothenburg, UCD, IEEP
http://europa.eu.int/comm/environment/enveco/taxation/environmental_taxes.htm
‘European environmental taxes and charges: recent experience, issues and trends,’ Ekins, P., 1999, Ecological Economics 31 (1999) 39-62, pp48
Environmental Taxes, EEA Draft Report, February 2000, pp6, 88
Essays on Environmental Regulation with Application to Sweden, Lena Hőglund, 2000
Evaluating Economic Instruments for Environmental Policy, OECD 1997, pp43-46 (order form at http://www.oecd.org//env/policies/publications.htm#eistrpub)
Review Meeting First Draft Update Taxes Report: Agenda Updated EEA Report on Environmental Taxes (Draft 16th June 1999), Schepelmann, Schegelmich & Luhmann, EEA 18.06.1999, pp70
The Potential Benefits of Integration of Environmental and Economic Policies in the European Periphery, Convery, pp7
Sterner, T. 2003. Policy Instruments for Environmental and Natural Resource Management. RFF
Johansson, B., 2000. The Carbon Tax in Sweden. in OECD 2000. Innovation and the Environment, Paris.
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英語版最終情報更新日
2004年2月
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